目次
損得による意思決定:プロスペクト理論から見るプロモ―ション
prospectとは日本語で「予測」「見込み」や「期待」という意味で用いられる単語です。
プロスぺクト理論は1979年にダニエル・カーネマンらによって発表された行動経済学の理論で、ダニエル・カーネマンはこの理論により2002年にノーベル経済学賞を受賞しました。
最初に「くじの問題」
プロスペクト理論を語る上でよく出される2種類の問があります。
如何に記載しますので、皆さんも「自分ならどちらを選ぶか」をお考え下さい。
【問1】
くじA:100%の確率で8,000円が手に入る
くじB:80%の確率で10,000円が手に入る(20%の確率で0円)
【問2】
くじA:100%の確率で8,000円を支払う
くじB:80%の確率で10,000円を支払う(20%の確率で支払わなくてよい)
さて、この二つの問、皆さまはどのような組み合わせになったでしょうか。
多くの方は問1がA、問2をBと選んだのではないでしょうか。
しかし、問1も問2も期待値(=取りうる値×確率)的には全く同じとなっています。
【問1】
くじAの期待値:8000×1.0=8000(円)
くじBの期待値:10000×0.8+0×0.2=8000(円)
【問2】
くじAの期待値:8000×1.0=8000(円)
くじBの期待値:10000×0.8+0×0.2=8000(円)
期待値的にはどの選択肢も同じとなりますが、何故このように回答に偏りが生まれるのでしょうか。
その偏りを説明するのが「プロスペクト理論」です。
プロスペクト理論で説明される2つの関数
プロスペクト理論は「価値関数」と「確率加重関数」という2種類の関数で説明がされます。
価値関数
価値関数とは簡単に言うと「利得による価値の感じ方」を表す関数となっています。
横軸が「利益」、縦軸は利益により生じる「価値(感情)の大きさ」を示しています。
この関数で表されるように、人間は利益と価値が正比例(y=a・xのような比例)にはなっていません。
原点よりx軸で正の方向と負の方向に|a|だけ進んだとしても、x=-aの方が感情であるyの値は大きくなります。
つまり、これは「利益を得た際の嬉しさより、損失を被った際の悲しみ」の方が大きく感じる傾向にあるのです。
更には|x|が大きくなるとグラフがS字を描き、傾きが緩やかになる点が存在しています。
これは扱う金額が増すことによって価値を感じにくくなる「感応度逓減」と呼ばれる現象が関係しています。
具体的には、「5万円貰える筈が10万円貰えた」と「95万円貰える筈が100万円貰えた」という場合では、同じ5万円の増額にも関わらず前者の方が大きな喜びを得ることが出来ます。
このように人間は人間の感情は金額に比例するのではなく、大きな金額になるにつれて感情が鈍くなっていくのです。
確率加重関数
確率加重関数とは「人間の確率の感じ方」を表した関数をなっています。
横軸が「実際の確率」、縦軸が「人間の感じる確率」を示しています。
日常生活において関わる様々な確率を我々は正しく認識してはいない、とプロスペクト理論では語られています。
下の図のようにおよそ実際の確率40%(X=40)を分岐として、低い確率ほど高く・高い確率ほど低く人間は感じます。
プロスペクト理論から見る2つのマーケティングプロモーション
プロスペクト理論は人間の行動心理を読み解く上で非常に有効ですが、特に価値関数を利用したプロモーション施策などは数多く存在しています。
そんな人間の利益と価値の関係を利用したプロモーション施策を2つご紹介させていただきます。
1つ目のプロモーション施策は「フィア・アピール」と言います。
価値関数の項目で人間は「利益を得た際の嬉しさより、損失を被った際の悲しみ」の方が大きく感じるという説明をさせていただきました。
この損失を被った悲しみを避ける為(損失回避)に人間は行動を行い、この行動心理を利用したテクニックこそ「フィア・アピール」です。
フィア(fear)というのは日本語で「恐怖感」という意味の単語で、フィア・アピールは損失や心配を想起させるテクニックです。
それだけを聞くと怖いテクニックのように感じますが、「この商品(サービス)を買わないと損しますよ」という事を伝えることで「損をしたくない」という人間の心理を利用するもので案外日常的に皆さん目している筈です。
2つ目は「リスクリバーサル」です。
直訳すると「不安の反転」となるこのテクニックは、顧客の「損をするかも」という心理を取り除くテクニックです。
具体的には返金保証や修理保証などの保証が数多く挙げられます。
まとめ
今回はプロスペクト理論と呼ばれる、行動経済学の理論についてご紹介させていただきました。
理論としては今より40年以上も前の理論とはなりますが、今でも人間の「損をしたくない」という心理に変化はありません。
フィア・アピールやリスクリバーサルもその心理を利用した立派なプロモーションです。
商品やサービスの販促において、これらの顧客の心理を理解した上で販促活動を行われては如何でしょうか。
ライター:うまのお肉